住職の語り【第八回】

皆さんには、それぞれ故郷があることでしょう。自分のいま住んでいるところがふるさとであれば、非常に意味があります。ここ米沢は太平洋と日本海の中間に位置し、海を見ようとすれば、車で各2時間ほどかかります。 東京からでも仙台方面からでも、米沢へ帰るときには福島の吾妻山を眺めれば、米沢に帰ってきたという実感がわきます。 歌によく出てくる津軽を例にとれば、岩木山や津軽平野、そして荒れた日本海がその象徴。米沢は、福島とつながる吾妻連峰が心のよりどころかもしれません。 米沢には海がないので、どうしても海に憧れます。海を見るたびに心のはしゃぐ自分がいるのは、どうにも仕方がないと思っています。 上杉鷹山公の師、細井平洲先生の出身地は愛知県東海市です。名古屋市のすぐ南、伊勢湾沿いにあります。東海市の太田川駅に降り立つと、ほんのかすかですが潮の香りがします。名鉄に乗って名古屋から太田川駅まで沿線の景色を見るのが私のささやかな楽しみです。 東海市は私にとりまして、単に関係のある場所ではなく心の落ち着く場所です。どこか懐かしい気もします。平洲先生の教えのおかげで、米沢藩は立ち直ることができました。先生の教えとあいまって、鷹山公の実践がそうさせたのです。 普門院の赤門前にある平洲先生・鷹山公の「敬師の像」は、昨年9月26日に東海市平洲会から寄贈されました。東海市・米沢市の友好の証であり、またお二人のこれまでの事蹟(じせき)をそのまま象徴するものでもあります。 普門院にいらっしゃる方から言われるのは、「何だか知らないけれど、安心する」です。 とりたててキラキラする寺ではないし、ありふれた山の寺だと思っています。ただ、皆さんにどこか懐かしい「故郷」のように思ってもらえる寺であれば、それでいいのです。 敬師の像をご覧いただき、境内を散策し、平洲先生お手植えの椿を眺めて、元気をもらってお帰りくだされば、それが私の幸せなのです。